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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6396号 判決

原告 シャープファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 井田勝彦

右訴訟代理人支配人 小林周信

右訴訟代理人弁護士 清水幹裕

被告 長坂隆四郎

被告 菅野律子

右両名訴訟代理人弁護士 野村英治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告らは、各自、原告に対し、金六〇四万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年三月一五日から完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

3. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、昭和五七年九月二〇日、訴外東京興商株式会社(以下東興という)に対し、別紙物件目録記載の各動産(以下本件各物件という)を、次の約定で賃貸する旨の契約(以下本件賃貸借契約という)を締結し、これを引き渡した。

(一)  期間 昭和五七年九月三〇日から昭和六二年九月二九日まで。

(二)  リース料(賃料)及びその支払方法 月額金一〇万八〇〇〇円毎月七日支払い。

(三)  契約解除 賃借人がリース料の支払を一回でも遅滞したときは、賃貸人は催告を要しないで本件賃貸借契約を解除することができる。その場合、賃借人は、残存リース料相当額の損害金の支払義務を負担する。

(四)  遅延損害金 日歩四銭

2. 昭和五八年二月七日が経過した。

3. 原告は、東興に対し、右期日経過後書面で本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は、昭和五八年三月九日に到達した。

4. 被告らは、昭和五七年九月二〇日、原告との間で、本件賃貸借契約に基づき東興が原告に対して負担する債務を連帯保証する旨の契約(以下本件連帯保証契約という)を締結した。

よって、原告は、被告らに対し、本件連帯保証契約に基づき、東興が原告に対して負担する、本件賃貸借契約解除による約定損害金である残存リース料金六〇四万八〇〇〇円及びこれに対する弁済期の経過した後である昭和五八年三月一五日から完済まで、約定の日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1冒頭の事実のうち、別紙物件目録(一)記載の物件を賃借する契約を締結したことは認めるが、その余の物件の賃借の事実は不知、本件各物件の引渡の事実は否認する。同(一)、(三)、(四)の約定は不知、同(二)の約定は否認する。

2. 請求原因3の事実は不知。

3. 請求原因4のうち、別紙物件目録(一)記載の物件にかかる本件賃貸借契約につき連帯保証したことは認め、その余の事実は否認する。

三、抗弁

1. 仮に、本件各物件の引渡があったとしても、その後左記のとおり物件引揚があったため、昭和五九年二月分のリース料不払は債務不履行とはならない。

(一)  訴外アイコー産業株式会社(以下アイコーという。)は、本件賃貸借契約につき、原告から代行権限を授与されていたところ、昭和五八年二月三、四日頃、東興のもとから本件各物件を引き揚げた。

(二)  (原告の不利益陳述)本件各物件のうち、別紙物件目録(二)、(三)記載の各物件については、原告自らが引き揚げた。また、同目録(一)記載の物件は、昭和五九年二月一〇日頃、アイコーから原告が受け取った。

2. 本件賃貸借契約には、解除に伴う損害賠償請求において、リース物件を原告が回収した場合、約定損害金から当該物件の評価額を差し引くものとする旨の約定があったところ、1の本件各物件の引揚については、引揚時の評価額は、国税庁の定める税法上の償却方法である定額法に従い、金五〇七万三六〇〇円を相当とするから、約定損害金から右金額を差引くべきである。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1については、(一)のうち、別紙物件目録(一)記載の物件をアイコーが引き揚げたことは認め、その余の事実は否認する。

アイコーらが本件各物件を引揚げたのは、東興が手形不渡を出したからであるから、これを商取引の上で異とするには足りず、これにより東興のリース料支払の責任が消滅するものではない。

仮に、右引揚が、リース料支払義務に影響するとしても、それは引揚日から解除日までの間の物件使用不能により、この間のリース料相当額に影響するのみと解するべきである。

2. 同2の事実中、その主張の特約があることは認めるが、物件の評価額については否認する。

本件各物件の評価額は、引揚時の交換価値によるべく、従って五万円ないし一〇万円が相当である。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因について

1.(一) 請求原因1のうち、東興が、昭和五七年九月二〇日、原告との間で、別紙物件目録(一)記載の物件を賃借する旨の契約を締結したことについては当事者間に争いはない。

また、〈証拠〉を総合すれば、東興が、昭和五七年九月二〇日、原告との間で、別紙物件目録(二)、(三)記載の物件を賃借する旨の契約を締結したこと、本件各物件の賃貸借は同一契約によりなされたところ、右契約において請求原因1(一)ないし(四)のとおり約されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 請求原因1のうち、原告から東興への本件各物件の引渡しの点について判断するに、〈証拠〉を総合すれば、本件各物件は、アイコーにより予め東興のもとに搬入されていたところ、昭和五七年九月三〇日、原告から東興に引き渡された事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2. 請求原因2の事実は、公知である。

3. 請求原因3の事実について判断するに、〈証拠〉によれば、右原告の支配人から授権された訴外水野三郎が東興に対し、書面で原告のためにすることを示して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、右意思表示が、昭和五八年三月九日に東興から授権された訴外松原護のもとに到達したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4. 請求原因4のうち、被告らが、昭和五七年九月二〇日、原告との間で、別紙物件目録(一)記載の物件にかかる本件賃貸借契約に基づき東興が原告に対して負担する債務を、被告らにおいて連帯保証する旨の契約を締結したことは当事者間に争いがない。また、前掲甲第一号証及び証人石井慎一の証言を総合すれば、同日、別紙物件目録(二)、(三)記載の物件にかかる本件賃貸借契約に基づき東興が原告に対して負担する債務を連帯保証する旨の契約を、被告らが原告との間で締結したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、抗弁1について

1. アイコーが、昭和五八年二月三日ないし四日頃、東興から別紙物件目録(一)記載の物件を引き揚げたことは、当事者間に争いがない。

さらに、〈証拠〉を総合すれば、昭和五八年二月四日頃、原告が、別紙物件目録(二)、(三)記載の物件を、東興が使用させていた相手方である訴外YSトレーディング事務所内から引き揚げたこと、同月一〇日頃、別紙物件目録(一)記載の物件がアイコーから原告へ引渡されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2. ところで、賃貸借契約にあっては、賃貸人が賃借人に対し、目的物の使用収益をさせる義務を負い、賃借人はその対価として賃料支払義務を負う。右賃貸人の使用収益をさせる義務は、契約の当初において目的物を引き渡す義務だけでなく、引渡をした後においても、目的物を賃借人の使用収益に適した状態においておく義務をも含むものである。従って、賃貸借の継続中に、賃借人が目的物の使用収益をし得なくなった場合、賃借人としては右使用収益をし得なくなった期間につき賃料を支払う義務を負わないものというべく、また、賃貸人は改めて目的物を賃借人の使用収益に適した状態におく義務があるというべきである。これらのことは、賃貸借の性質を有するとみるべきリース契約においても何ら異なるものではない。

本件に即して考えるのに、前記認定事実によると、賃貸人である原告は、本件各物件のうち、別紙物件目録(一)記載の物件については、昭和五八年二月一〇日頃アイコーを通じて引渡を受け、同目録(二)、(三)記載の各物件については同月四日頃自ら引き揚げたのであるから、以上の各物件につき、右各日以降原告が各物件を改めて提供するまでの間は東興は賃料支払義務を負っていないものというべく、かつ右原告による提供の事実については主張立証がないから、原告が解除の根拠としてリース料不払を主張する同月及び以降分については、そのうち比較的少額の右各日以前分の賃料支払義務を認めうるに過ぎない。

また、原告は、遅くとも前記各日以降は、各物件を改めて東興の使用収益に適した状態におく義務を負いながら、右義務を果しているとはいえず、特に別紙物件目録(二)、(三)記載の各物件については、昭和五八年二月分のリース料支払期日より前に引き揚げ、東興の使用を妨害している。

右各事実に照らすと、前記認定の、本件賃貸借契約における、リース料の支払を一回でも遅滞したときは無催告解除を認める旨の特約のあることを考慮しても、前記認定の原告による解除の効力を認めるのは、当事者間の公平を失し、相当ではない。

なお、原告は、本件各物件の引揚は、東興が手形不渡を出したためであるから異とするに足りない旨主張するが、そのような事情をもって物件の引揚確保を正当化することはできないことは言う迄もないから、右事情があったとしても、それは、本件解除の効力を認めるに資するものとはいえない。

3. よって、原告による本件賃貸借契約の解除は無効であるというほかなく、東興は解除による約定損害金の支払義務を負うとはいえず、被告らもこれにつき連帯保証責任を負うとはいえない。

三、結論

以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高田泰治)

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